いつもの森林公園・・・レジャーシートに寝転んだ俺・・・
頬を撫でる風は・・・寒くも無く暑くも無い・・・

いつもの弁当、一口サイズの小さなおにぎり・・・
唐揚げと玉子焼きとカイワレと・・・色とりどりの自信作
そして真っ赤なイチゴに・・・食後のコーヒーでフルコース

芝の上のランチタイムのあとは・・・のんびりと昼寝
いつものデート・・・いつもの俺たち・・・

隣のは・・・持参した文庫本を読んでいて
ページをめくる紙の音が・・・時折耳に届く

俺は閉じていた目を開き、空を見上げ・・・呟いた


「桜を過ぎて・・・街中が萌黄色に輝き
 晴れ渡る空に、一筋の飛行機雲が伸びてゆく」

詩人を気取った俺の言葉に・・・は本を閉じ ふふん と鼻で笑う


「珪くん・・・なんとなく、気持ちはわかるけど
 今日は曇りなの、だから飛行機も雲の上だよ」

俺の「柔らかな日差し降り注ぐ4月」の表現は・・・
現実的なの言葉にあっけなく遮られ
悔しくなった俺は・・・曇り空を見上げたの手を ぐっ っと引く・・・


「なぁに?」

そう言って振り返ったその頬に、人差し指を押し付けた


おまえ、最近やけに憎らしい


声には出さない・・・でも抗議の眼差しを向ける俺
は・・・呆れたように小さなため息を一つ


「もぉ、痛いでしょ」

笑顔でそう言うと・・・寝転んでいる俺の両頬を3倍くらいの力で引っ張った


「むぐぉ」
「どぉ?痛いでしょ?」

俺はつねられたまま うんうん と頷く


「もう悪戯しない?」

ここで簡単に降参するのは男が廃る
俺は、の膝小僧に手を伸ばし こちょこちょ とくすぐった


「やんっ、もぉ、この手は〜!」

更なる悪戯に、は本気度を増して、頬をつねりながら俺の手をバチンと叩く
結構な いい音 がして、痺れた手・・・
負けじと俺はの膝をくすぐり続ける


バチン こちょこちょ バチンバチン こちょこちょ

無意味な攻防が無言で続き・・・互いに疲れが見え始めた頃
はなおも笑顔で俺を見ると・・・


「もぉ、いい子にしてないと嫌いになるからねっ!」

そう言い放った・・・


「いいよ」
「いいの?」
「ん・・・」
「じゃぁ〜、珪くんなんか嫌いっ!」

は にんまり と満面の笑顔を見せ、俺の頬を両手で包んだ
俺は・・・の手のひらの上に自分の手を重ね、こう言う


「俺も嫌いだ・・・」

そして獲物を見つけた子猫のように期待に満ち溢れた眼差しを向ける

ぐいっ


「あんっ」

小さな悲鳴はお約束で・・・引き寄せられたは、すっぽりと俺の胸の中に納まった


「本当に嫌いなんだからね〜」

そう言いながら・・・シャツのボタンと戯れるの指先
甘美な刺激が俺を満足させ・・・
そっと髪を撫でると・・・いつものの香りが俺の鼻をくすぐった


「きら〜い、きら〜い、珪くんなんか、きらいだよ〜」

歌うように・・・そう繰り返すの額に、そっとキスをする


「そんなことしても、きらいだよ〜」

嬉しそうなが・・・たまらなく憎らしくて、可愛くて・・・
俺は、やっぱりを抱きしめてしまう


「そんなに嫌いか?」
「うん、きら〜い」

胸元に顔をうずめるを引き上げて・・・まっすぐにその瞳を見つめた


「珪くん・・・」
・・・」

パチパチと繰り返される瞬き・・・
その奥で、俺を見つめるの瞳
真っ直ぐに・・・ゆっくりと近づくと


「だ〜めっ」

俺の口はの手のひらで押さえられ・・・
はすばやく身体をずらし、俺の隣に寝転んだ

少しばかりの落胆・・・

潔く諦めた俺は左手を伸ばし・・・の右手を掴んだ
小さな手・・・細い指、俺は指を絡め
柔らかな温もりを確かめるように・・・の手を愛しむ



「ねえ、珪くん」
「ん・・・?」
「珪くんって、手を繋ぐの好きだよね」
「ん・・・」
「なんかね、意外な感じがしたの」

いたずらな戯れを終え・・・が問いかけた


「俺は・・・手なんか繋ぎたがらないと思ってたのか?」
「うん、どう考えてもNGでしょって思ってた」
「ん・・・・」
「どうしてそんなに手を繋ぎたがるの?」


どうして?
の問いかけに・・・俺は自身の脳裏で答えを探す・・・


手を繋ぐ行為を・・・俺は好まなかった
それは・・・大きな事実だった



小さな俺・・・
セピア色の思い出の中の俺・・・
手を伸ばし・・求めた愛は・・・いつも手に入ることは無かった


「珪、今忙しいから、あっちで遊んでてね」

伸ばした手は・・・
行き場を失い、ただ ぶらん と落ちて
心の砂場では・・・雨が降っていたのだろうか
それすらもわからないくらい・・・俺は 求めない子供になっていった

わがままを言う事が・・・大切な人の笑顔を奪う
困ったように首を振る姿は見たくないから・・・
俺は・・・手を伸ばすことも、何かを訴えることもしなかった


「今日もいい子にしてた?」

おとなしく・・・ いい子 にしていることが
俺が 愛される最善の方法 だと、そう思っていた
だから・・・誰かの手を求めるなんて・・・思いもしなかった


それなのに・・・の手を握った俺は、気づいたんだ
温かいこと、柔らかいこと・・・
そして、手の温もりが・・・何より恋しいことを・・・
だから・・・いつも手を繋いでいたい
の手を・・・ずっと握っていたい



「珪く〜〜ん?」
「え・・・?」
「ん、もぉ、まぁた ぼーっ としてっ!」
「ごめん・・・」
「ごめんじゃなくて、どうして手を繋ぎたいのって質問の答えは?」

繋いだ手をぶんぶんと揺らしながら・・・が俺を見つめていた


「おまえの手、ぷにぷにしてるから」
「はぁ?」

ろくでもない返答に・・・は全く納得せずに、非難の眼差しを向けた


「そんな事言うなら、もう手は繋がない!」
「え・・・?」
「もう、珪くんなんか嫌いだから手も繋がないし別れる!」
「別れる・・・?」
「ん、もぉ、我慢できないから別れてやるーっ!」

何に我慢できないのか・・・俺にはわからないけれど・・・
はこれでもかというほど頬を膨らませ、俺の胸元をポカポカと叩いた
俺は・・・その手を掴んで・・・暴れる身体を引き寄せ抱きしめた


「嫌いだよ、珪くんなんか!」
「ん・・・」
「ぷにぷになんて、ひどいもん、もぉ!」
「そうか・・・ごめん」
「謝ったって、許さない、もぉ、別れる」
「わかった、それじゃ、俺も別れる」
「はぁっ!?」

俺の返答は・・・にとって好ましくなかったのか
顔を上げ真ん丸の目で俺を見ると、さらに力をこめて暴れだした


「け、珪くんには、別れるなんて言う権利、無いんだからね!」
「ん・・・」
「もぉ、そんなこと・・・・言っちゃ・・・」
「・・・?」

は身体を震わせて・・・俺の胸に顔を押し付けた
何も言わない・・・
でも、その肩が、泣いている事を知らせていた


「ごめん・・・」
「・・・」
、泣くな・・・」

は何も言わずに首を左右に振って 泣いていない と主張していた

意地っ張り・・・
この身体のどこにそんな意地が隠れてるんだ?
そう思えるほど、は意地っ張りで、強がってばかりいる


・・・」
「・・・」
「おまえの手・・・、好きなんだよ」
「・・・」
の手だから・・・好きなんだ」
「・・・」

俺は・・・腕の中で震えるの髪を撫で・・・
胸元を叩いていたその小さな手を握った


「手を繋ぐのが好きなんじゃない
 の手だから・・・繋ぎたい」

は・・・俺から身体を離し・・・赤くなった目で俺を見た


「どうして・・・?」
「理由なんて・・・わからない
 だけど、俺の手がおまえの手を欲しがった・・・」

理屈で説明できれば・・・どんなにか簡単なのに
でも、うまく言うことなんて・・・できなかった


ぐすんぐすん

二度鼻をすすると・・・はにっこりと笑った


「私の手も、珪くんの手がないと寂しいって言ってる」

俺は・・・目の前の愛しい人を抱きしめた

言葉は、うまく言えない
伝え方も、不器用だけれど・・・
でも・・・俺と


繋がっていること


それが、本当に・・・嬉しかった


・・・」
「珪くん・・・」

は・・・俺の耳元に唇を寄せて・・・こう、呟いた


「珪くんなんか、だいっきらい」

俺は・・・思う存分力をこめて、その身体を抱きしめてこう言った


「俺も・・・大嫌いだよ」


今にも雨粒が落ちてきそうなグレーの空が・・・
バカップルの俺たちを見下ろしていた

風薫る5月まで・・・あと少し
二人で過ごす、3度目の季節・・・
俺たちは、こうしてバカな事言いながら
泣いたり笑ったりして・・・過ごしてゆく

これからも・・・ずっと




END


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